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19世紀~20世紀初頭の風景 Part3-小さな顎当てと低い顎当て

  • 5月11日
  • 読了時間: 3分
David Mannes
David Mannes

福岡の石田泰史さんは音響マニアで、かつての工房には巨大な特注スピーカーや様々なアンプ、蓄音機、棚いっぱいのレコードや素人にはよくわからない機器の数々を収集しておられた。昔の演奏のレコードを自慢の特注スピーカーで聴かせてもらうと確かに明らかな違いがある。指が弦を擦る音や指板を叩く音など様々な音が聴こえるのである。音響機器やレコード収集にのめり込み大枚をはたく人の気持ちが少しわかったと同時に、当時の弦やセットアップ、演奏について色々と考えてしまった。20世紀前半では理想としていた音や演奏のありようがそもそも違っていたのだと思う。この頃に作られた楽器がエステートセールなどで市場に出てくるとガット弦の他、小指ほどの小さな顎当てや極端に低いペタッとした顎当てがそのまま付いてくることがあって、これは一体どういうことなのだろうと長らく疑問に思っていた。顎当てを付ける、付けないで大いに議論があった時期である。

 

I absolutely disapprove, in theory, of chin rest, cushion or pad…The more close and direct a contact with his instrument the player can develop, the more intimately expressive his playing becomes…A thin pad may be used without much danger, yet I feel that the thicker and higher the “chin rest”, the greater the loss in expressive rendering.

 

David Mannes


ニューヨークのデイビッド・マネスが1919年に語っていたことであり、20世紀に入ったこの頃においても顎当てを使わない人達が一定数いた。頑なに顎当てを拒絶する先生がいたら生徒は「顎当てなんぞ使っていられるか!」といって顎当てを外して演奏したことだろう。この時代に作られた楽器に付いていた小さな顎当てにはマネスが話している内容が背景にあったのだと思う。あまり大きなものを付けることをよしとしなかった当時の風潮である。小さな顎当てを最初に使った人はフランスのジョゼフ=バルナべ・サン=セヴァン(L‘Abbe le fils)と言われており、それから1世紀以上にわたり顎当てを“付ける、付けない”をやっていたことがわかる。バイオリン演奏において100年以上顎当ての使用について否定的な意見があったということは、顎当てを付けることで失うものも多くあることを示しているのだと思う。実際に顎当て無しの楽器に慣れてしまった人は、背の高い顎当てがどこか首枷のような感じがしてならないのではないか。マネスに現代の顎当て、肩当てを付けた姿を見せようものならきっと卒倒してしまうことだろう。



極端に低い顎当てとマネスが拒絶していたクッションについては実際に少し昔のアウトフィットを見てみよう。ケースはいわゆるコフィン(棺桶)型の木製で弓が2本収納できるところは現在の三角ケースとさほど変わりがない。




弦は上2本がスチール弦、下2本がガット弦で予備の弦は付属の上下開きの2層のブリキ缶に巻いて収納する。わりと大きめのクッションが付いており、これをシャツやジャケットの下に入れて演奏する。昔ヨアヒムがクッションを洋服の下に入れて演奏したというが実際に手にしてみるとかなりのボリュームがあって、これと対をなすのがペタッと低い顎当てである。演奏シーンでは左肩がボコッと盛り上がった人達が多くいたわけで、彼らを冷ややかな視線で眺めるマネスが目に浮かぶ。タ―ティスを調べて以来、20世紀初頭の風景が気になって調べている。そう遠くはない過去ではあるものの知らないことばかりでなかなか面白いものだ。

 
 

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