板状の弓 Part-2
- Satoshi Kamata
- 6月20日
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弦楽器の弓の起源は武器の弓にあって、古の絵に遺る板状の楽弓の先端形状やクロスセクションを考えるにあたり参考になるのは狩猟や戦に使われた弓で、熱して反りを付けた弓は石器時代にまでその歴史を遡ることが出来る。弓弦を先端にどのように括り付けていたのか、材料は何であったか、そして道具として力を発揮する為に必要な形状はどのようなものであったか、色々なことに興味がある。

武器の弓の材料はそのまま楽弓の材料として使えるので、当時の材料事情を知る手掛かりにもなる。イチイ、トネリコ、ニレ、セイヨウハルニレなどは当時需要が高かったという。板状であるのは両端であり、特にショートボウにおいて先端に返しを付けたものは矢をより速く遠くまで射ることができた。反りのついた弓は楽弓そのものの形をしており、初期の楽弓の先端形状は武器のショートボウと同じと考えて良いと思う。ジャンヌダルクがその末期に活躍し、イギリスとフランス間で戦われた100年戦争で、イギリス軍が携えていた弓は長く真っ直ぐなイチイのロングボウで、矢を安定して遠くまで射ることができたという。イチイの弓が重宝された為、中世を通じて多くのイチイが伐採された。イギリスでは早々に材料が枯渇し伐採に対する規制なども出された為に、スペインやイタリアの材料を求めたという。スペインでは良質なイチイが採れたが、イギリス軍に使用されるのを防ぐために多くを切り払ったという。100年戦争が終わる頃には弓として使える材料が枯渇して、熱帯から入りつつあった材料に目を向けることとなる。当時の文献に5番目の材料として記述があるのが“basil”又は“brazil”であり、東南アジア原産のサッパンウッドである。マルコポーロはこの材料をイタリアで育てる為に持ち帰ったというが失敗したという話が遺っている。
続く
参考文献:WITH A BENDED BOW:Archery in Mediaeval and Renaissance Europe/Erik Roth