板状の弓 Part-1
- Satoshi Kamata
- 5月1日
- 読了時間: 2分

プレトリウスがシンタグマ・ムジクムを世に出した1614年頃の弓には毛束を収納するヘッドが既に存在し、クリップインのフロッグも付いていた。17世紀初頭の弓の特徴としてヘッドの最先端は弓の毛より低い位置にあって、ヘッドよりフロッグ側が高い。クリップインフロッグの先端も三角形になっておらず、切りっぱなしのものが多かった筈だ。もう少し後の年代になると、フロッグが演奏中にズレることを防ぐためにスティックにV字の溝をカットしてクリップインフロッグの先端を三角に削り、しっかり固定するようになる。カルロ・ファリーナ達がバイオリンのフロンティアを変えつつあった時代である。
少し前のプレトリウス以前の弓はどうであったかというと、弓の先端に毛束を括り付けただけのものも多く、フロッグもスティックと一体で削りだしのものが絵画表現にでてくる。1580年頃のエングレービングには弓なりに大きく反っている弓の柄を握って低音楽器を演奏する奏者の姿がある。普通弦楽器の弓というと丸弓か八角の弓をイメージするだろうが過去には5角形や6角形の弓もあり、16世紀のこの頃までは武器の弓のような板状のクロスセクションを持った弓が存在した。弓では縦横の寸法差が0.4㎜を超えるとその箇所で不具合を起こすなどと言われているが、それは丸弓や角弓のモダンボウに限った話であって全体が板状の弓には意味を成さない。板状の弓でも調整不足のモダンボウよりはよほど弾きやすく、出来ないことはあるにせよクラシカルなレパートリーなんかも弾けてしまう。こういう古の弓を形にするたびに思うことは、弓奏を人が始めた時点で道具側にはもう既にあらゆることを表現する能力があったということだ。どこまで遡ってもそれはあまり変わらないのである。