top of page

ヴィヨームが考えたこと Part-1

弓は毛が伸びればバランスが変わる、落とせばヘッドが飛ぶ、張った状態にすれば反りが抜けるなど欠陥だらけであって、未だに改善の余地はある。修理をする者は折れた弓などを直しつつ、「これ何とかならないのかなぁ」などと日々思うのである。


ヴィヨームは彼のビジネスにおける才能が注目されがちだが、多くの楽器を作り、様々なものを発明し、多くの人を育てた。また一人の職人として目の前の様々な楽器や弓の不具合、欠陥に向き合い彼なりに答えを出そうと日々奮闘していたのではないかと思う。ヴィヨームが弓で行った発明の多くはそうした不具合を何とかしようとしたものだ。彼がかつて弓の欠点として考えていたことの一つに、弓毛が伸びることによりフロッグの位置が変わり重心が変わることがある。 その解決策として彼が考えたことがフロッグを固定することであり、セルフリヘアリングボウだ。フロッグの中の機構が前後に動くので全く変わらない訳ではないが、バランスだけを見れば最小限の移動で済む。毛替え用のキットを作って売り出したものの、従来のプラグで留める方法を置き換えるには到らなかった。馬毛は湿度変化によって大きく伸び縮みするので、毛の長さの微調整や弓毛をバラつきなくテープ状にピタッと整えることが難しかったのだろう。湿度変化の影響を受けないナイロンの毛を使用すれば或いは実現が可能なのかもしれない。


セルフリヘアリングボウ 出典:L'Archet volumesⅡB.Millant, J.F.Raffin P79
セルフリヘアリングボウ 出典:L'Archet volumesⅡB.Millant, J.F.Raffin P79

ヘッド付近で弓が折れるトラブルは木の繊維が長いスネークウッドやアイアンウッドから、 比較的に短いペルナンブーコに弓の材料が置き換わっていった18世紀末から増えていったに違いない。トゥルトの時代には首元の反りは削り込んで付けていたので多くの弓で首元10㎝ぐらいまでの間で木目が斜めに切れており、当時の折れの多くは今の弓のようにポンッとヘッドが飛ぶというよりは、木目に沿ってササクレのようなリフトが起こり裂けるように折れたのではないかと思う。


ヘッド飛び修理
ヘッド飛び修理

モダンボウが生まれて四半世紀が経つ頃には修理が必要となった弓が巷に溢れていた筈で、リュポーがフロッグ欠け防止の為にフロッグの黒檀とスティックの間にアンダースライドと呼ばれる金具をつけだしたのもこの頃である。現在ではヘッドが飛んだ際に行うのは接着して薄い板の割入れを行うスプライスであるが、これをいつからやるようになったのかは定かではない。昔、ヒル商会で製材時に木取りを誤った弓に新作でありながら割入れをして出荷したなどという話を聞いたことがあるが、弓の作り方が変化した19世紀後半のことではないかと思う。削りで付けていた首元と手元の反りを、真っ直ぐに削ってから熱で曲げて反り入れをする方法に変化していったのもこの頃である。木目が繋がっていたほうが弓の強度がでるからで、目切れをしているか否かでおおよその作り方と時代がわかる。


出典:The bows of die bogen des Nikolai Kittel P69
出典:The bows of die bogen des Nikolai Kittel P69

トゥルトの時代の弓の多くは首元や手元で目切れがあり、 真ん中は木目が繋がっているので、中央部の反りに関しては熱で曲げていた。今でも多くのメーカーが少なかれ製作でやっていることである。完全な削り弓というものがあったか、無かったかという議論があるが、(出典は失念したが)昔19世紀前半にドイツで書かれた弓や楽器の本に“反りの形状で切り出して”というのがあるものの、少なくともフランスの弓作りにおいて完全な削り弓は存在したことがない。トゥルトが使用したと伝わる鉋があるが、この鉋の底面はフラットなものだ。もし完全な削り弓というものがあったならばバイオリンの内側を削るような反りの付いたラウンドソールの鉋がある筈だが、伝統的に弓の鉋はフラットソールである。


続く

 
 

Atelier Kamata​ アトリエカマタ

〒250-0865

神奈川県小田原市蓮正寺848-4

TEL:0465-46-6659

Mail:atelierkamata@gmail.com

神奈川県公安委員会 第452700013406号​ 

鎌田 悟史 

© 2019 Atelier Kamata

bottom of page